「Zero Infinity -Devil of Maxwell-」感想
エロゲ(感想・レビュー) - 2013年10月14日 (月)

タイトル:「Zero Infinity -Devil of Maxwell-」
ブランド:light
評価:C+(S~E)
※以下ネタバレを含みます
◆雑感
昏式龍也がメインシナリオを担当する作品をプレイするのは『Vermilion -Bind of Blood-』『イノセントバレット -the false world-』に次いで三作目。
三作目ともなるとライターの色や作風が見えてきて、こういう話に飛ぶんだろうなとある程度予想しながら読み進めていったのだが、物足りない点も含めてその予想の範疇に収まる作品だった。
思うに、昏式龍也というライターは人間哲学をテーマに据える。ある問題を提示して、それに対する「人の在り方」を作品の中で語るのだ。『Vermilion』では現実や社会といった束縛に対する人の在り方を、『イノセントバレット』では人の行く末を翻弄する運命に対する向き合い方を説いた。(後者は終盤の展開の性急さもあって不十分ではあるが。)
また、バトル物と言えば「燃え」を想像するであろうが、氏の作品の場合だとその色はそこまで濃くはない。それ以上に、先に述べたような思想を語る場として機能している。敵との戦いが単純な力の優劣を競うだけでなく、テーマに対する思想・理念対立としての側面もあるのだ。一見すると壮大な異能力バトルだが本質はディベートと大差ない。
・人間哲学をテーマに据える
・思想対立がメインで「燃え」に関してはそこまでではない
この二点を念頭に置いて本作を振り返っていきたい。
まずはテーマについて。一言で言うと「科学技術と人類の歩み方」であろうか。主人公・秋月凌駕は、科学の進歩を掌握する<時計機構>との戦いの中で彼らの真の目的を知り、最後は黒幕であるオルフィレウスと真っ向から対立する。
「人間の在り方」を説く時にどのような立ち位置から語るのかは非常に重要なファクターであるが、凌駕のような主人公はあまり見ないキャラクターだったので新鮮だった。ある意味で他のバトル物とは一線を画す主人公像である。
「平凡な学園生活を送っていた主人公がある日突然戦いに巻き込まれる。そこで日常を取り戻す為に敵との戦いに興じ、最後は勝利して日常を取り戻す…」
バトル物だとよくある起承転結である。ただ、普通に考えると平凡な生活を送っていた人間が戦いに巻き込まれて立ち向かう選択をする事はまず有り得ない。自分なら絶対怖くて逃げ出すと思う。つまり、主人公足り得る人間は総じて異質な精神を持った存在である。これは暗黙の了解として見過ごされている事だが、本作の面白いところは主人公がその異常性を自覚するのだ。
他人から普通じゃないと言われ、本人もそれを嫌というほど自覚する。それでもなお、凌駕は普通の人間であろうとし仲間と共に歩もうと決意する。人とは異なる精神性を持った人間が「人間の在り方」を語るのだ。逆にオルフィレウスは強者として孤独に歩み続ける事を決意した。科学の無限の可能性の為には人間を犠牲にする事も厭わない。似ているようで決定的に違う彼ら二人の思想対立は見所があった。
己の精神性を契機として発現する<心装永久機関>による戦いといい、思想対立物としては本作もよく出来ていたと思う。
その反面、燃えゲーとしてはパンチに欠ける印象を抱いた。『Dies Irae』を引き合いに出す人が多いが自分もそうしたい。
輝装、影装のような段階を踏んだ能力強化(詠唱もそれっぽい)、美汐・エリザベータ√での敵との決着が付いていない「つかの間の休息」的な終わり、敵キャラの性格といい、似ているなと感じる部分が多々ある。
そして残念なのが、似ている部分から本家を超える何かを見出だせなかった事だ。イヴァン、乱丸はベイやシュライバーに比べるとどうしても魅力に欠ける。これは特に敵キャラに言える事だが過去回想の見せ方が上手くない。あっさり終わるのでバックボーンとしては弱いように感じた。
全体の構成にしてもジュン√の段階で敵味方の能力や話の全貌を明らかにしているので、マレーネ√はクライマックスだけど戦闘自体は目新しさに欠けた。礼戦も対話重視なので乗り切りなかった。
あとは輝装→影装でビジュアルに殆ど変化が無かったのは残念だった。単純だけど見ていてワクワク出来るかが一番大事だと思う。『Vermilion』といい戦闘時の演出がやや迫力に欠ける。
「思想対立物としては面白いけど燃えゲーとしてはパンチに欠ける」
これは自分が昏式龍也作品に共通して思っている事で、それでも一定の評価はしているのだが、そろそろ戦闘の見せ方にも何か変化が欲しいというのが正直なところである。戦闘に華というか派手さが足りないように思う。
Gユウスケ・正田崇ラインに埋もれがちだけど面白さは負けてないと思うしもっと目立って欲しい。
次回作『Electro Arms -Realize Digital Dimension-』は演出面がかなり強化されているようなのでそこに期待したいところ。今となっては燃えゲーを定期的に提供してくれる貴重な18禁ブランドなのでlightには期待しています。